活動報告
職業を知ろう! No1. 『客室乗務員(キャビンアテンダント)』【完全版】
2016/09/03客室乗務員とは、旅客機に搭乗して、乗客の搭乗から到着まで、機内サービスや乗客の安全を守る対応など、さまざまな業務を行う仕事です。CA(キャビンアテンダント)というのは和製英語であり、海外ではフライトアテンダントまたはキャビンクルーと呼ばれています。
今回は、昨年まで17年間、日本航空(JAL)で客室乗務員(キャビンアテンダント)を務められた山下里佳さんに、インタビューを行いました。
ーー山下さんが、客室乗務員を目指したきっかけを教えて頂けますか?
山下さん 高校の修学旅行で初めて飛行機に乗った際に、客室乗務員の方と記念撮影をして頂きました。客室乗務員の方の帽子をかぶせてもらい写真を撮ったのですが、その時に強く憧れを抱いたことを覚えています。
ーー客室乗務員との記念撮影がきっかけだったんですね。
山下さん はい。現在の客室乗務員は、帽子はすでに着用していないのですが、当時は着用していました。本当に素敵でした。
ーー客室乗務員になるまでの過程を教えて頂けますか?
山下さん 短大を卒業後、ホテル日航金沢に就職しました。そのホテル日航金沢の一角に、航空券を販売するブースがあり、そこで働いている「グランドスタッフ」に強い憧れを抱きました。
ーー最初は、ホテルスタッフとして就職されたんですね。その職場であるホテルで、グランドスタッフに強い関心を持たれたのですか?
山下さん はい、そうです。グランドスタッフとは、「グランドホステス」とも呼ばれていて、主に空港での接客業務に携わる人を指します。結局一年後に、グランドスタッフ採用試験を受けて転職しました。
ーーホテルスタッフからグランドスタッフに転職されたんですね。
山下さん その後、グランドスタッフとして働き、とても充実した日々を送っていました。そんな時に、会社が取り寄せていたエアライン雑誌を何となく読んでいたら、客室乗務員の募集記事が掲載されている箇所に目がとまりました。その瞬間、高校の修学旅行で強く憧れを抱いた記憶が蘇ってきたんです。それで、思い切って客室乗務員の採用試験に挑戦する決心をしました。
ーーホテルスタッフから、グランドスタッフ、そして客室乗務員というように、徐々に夢に近づいていったのですね。
山下さん はい。ただ、客室乗務員になるといっても、そんなに簡単な道のりではありませんでした。まず、最初に、当時の日本エアシステム(JAS)の採用試験では、一次試験(書類選考)で不合格でした。めげずに、次の全日空(ANA)の採用試験に臨むも、二次試験で不合格になってしまいました。
ーー確かに、客室乗務員の採用試験は志願者も多く、倍率も高いと聞きます。ふつうだったら、不合格が二回続いたことで、めげてしまいそうですが。
山下さん そうですね、今の私であれば、めげてしまうかもしれません(笑)でも、当時の私はあきらめきれず、日本航空(JAL)の採用試験に挑みました。そして、何とか最終面接を突破して、晴れて客室乗務員になることができました。
ーーあきらめずに挑戦し続けた結果、3度目の正直で山下さんの夢が叶ったということですね。このような成功体験は、十代の学生たちが聞くと、非常に勇気づけられ、自分の夢に向かって行動しようとする気持ちがわいてくるのではないでしょうか?
山下さん そう言って頂けると嬉しいです。
ーー客室乗務員には、一般的に華やかでスマートなイメージがあります。高校生に抱いた憧れがきっかけで客室乗務員になったわけですが、実際に仕事をされる前と、された後で感じたギャップのようなものはありましたか?
山下さん はい、とても大きなギャップを感じました。私が頭の中で描いていた憧れの客室乗務員のイメージとは、優雅でエレガントなものでした。ところが、現実はそれとは全く違い、働き始めた頃の私にとっては、とにかく過酷なものでした。
ーー抱いていた憧れのイメージと現実は大きく異なっていたんですね。
山下さん そうです。採用試験をパスしたと言っても、まず研修期間があるので、旅客機で客室乗務員としてすぐに働けるわけではありませんでした。約1ヶ月半の研修期間は、全員が寮で生活を共にして、接客や英語など様々なことを学びました。英語が苦手だった私は、とにかく授業についていくのに必死でした。厳しい研修についていけず、途中でやめてしまう方もいらっしゃいました。
ーー採用試験をパスしたのも束の間、すぐに旅客機で働くための大変な研修期間があったんですね。
山下さん 研修期間を修了した者でしか、憧れの客室乗務員の制服を身につけることはできなかったんです。とにかく、「あの制服を着て働きたい!」という一心で、なんとか研修期間を終えることができました。
ーー憧れの制服を初めて着ることができた時は、本当に嬉しかったでしょうね。
山下さん はい、私の人生の中でも特別な瞬間でした。
ーー実際に機内で働き始めた後、どんなことが大変でしたか?
山下さん まず、お客様の重い荷物の収納が大変でした。後に、国際線で働くようになってからは、時差に悩まされる日々でした。早朝便乗務では、午前2時に起床することもあり、深夜便の徹夜乗務では、仮眠がとれない場合、丸一日睡眠がとれなかったこともありました。おかげで、昼夜逆転の日々がしょっちゅうでした。
ーーそれはハードですね。イメージとは全然違います。
山下さん 国際線だと、深夜に食事をとる必要があります。私は、深夜にステーキなど重たいものをとる食事は苦手だったのですが、仕事のために頑張って食べていました。また、食事サービスのカートは約100kgあるのですが、それを押して運ぶのは辛かったです。とにかく、体力勝負の毎日でした。
ーー大変です。食べたくなくても、しっかり食べないと体力的に持ちませんよね。
山下さん そうなんです、おかげでかなり鍛えられました(笑)
ーー客室乗務員の一日の流れを簡単に教えて頂けますか?
山下さん 例えば、11時出発のニューヨーク線の便に乗務する場合、前日に荷造りし、ニューヨーク線の予習をします。
ーー予習というのは?
山下さん 食事の盛り付けの仕方や、サービスの流れについてのシュミレーションを約1時間おこないます。実は、エコノミー、ビジネス、ファーストのどこに配置されるかは、当日にならないと明確になりませんでした。当然、各クラスによってサービスの内容は異なるので、どこに配置されてもいいように、前もって準備する必要がありました。
ーー前日の準備が大切なんですね。
山下さん そうです。そして、乗務当日は午前5時に起床し、6時の電車に乗りバスに乗り換え、7時20分に成田空港に到着します。会社で朝食をとった後、制服に着替えて8時にオフィスへ向かいます。そこで、乗務便の事前学習をおこないます。車イスのお客様や一人旅のお子様、特別食(アレルギーや宗教など)や上顧客のお客様の対応などです。9時からはブリーフィングがあり、一緒に乗務するメンバーと打ち合わせをします。
ーー機内に向かう前に、綿密な準備があるんですね。
山下さん はい。その後、10時に機内へ入り、コックピットブリーフィングをおこないます。ここでは、気流が原因で揺れる時間帯やフライトタイムの確認をします。それから、機内食の数を確認し、新聞を並べ、ハンガーをセットするなど、お客様ご搭乗前の準備をおこないます。
ーーいよいよ出発ですね。
山下さん その後、10時30分にボーディング(搭乗)スタート、11時に離陸の流れになります。その後、2回の食事のサービスと1回の軽食サービスがあり、13時間後の日本時間の深夜0時にニューヨーク到着になります。この時、ニューヨークは午前11時です。乗務を終えてホテルに到着できるのは、日本時間の深夜2時頃です。
ーー日本時間で言うと、5時に起床してから、ホテルに到着して休めるのは26時以降ということですね。本当にハードです!
山下さん 非常に大変ですが、「無事に乗務を終えることができた」という充実感は本当に大きいです!
ーー次に、休日や残業について教えて頂けますか?
山下さん 基本的に、月に約90時間の乗務に対して、月に10日の休日があります。また、ほとんど残業はありませんが、トラブルがあった時はレポートを提出する必要があります。
ーー休みの日は、どんなふうに過ごされていましたか?
山下さん 友人とランチへ行ったり、ヨガやマッサージ、観劇でリフレッシュしていました。
ーー英語の力は、実際にどの程度必要とされますか?
山下さん 採用基準としての英語力は、TOEIC600点以上が必要です。入社後も、スキルアップが求められます。例えば、チーフになるために750点以上が要求されます。
ーーやはり学生時代から勉強しといた方がいいですね。
山下さん 私は英語で苦労したので、絶対に早めに勉強したほうがいいと思います。
ーー客室乗務員は、常に笑顔で優しく対応されているイメージがあります。実際、どんな性格の方が多いのですか?
山下さん 客室乗務員という仕事は、酔っぱらいのお客様、暴言を吐くお客様など、様々なお客様に対応しなければなりません。そのため、ときに毅然とした態度で接する必要があります。もちろん、優しさがあるのは大前提ですが、入社後、全員が徐々に強い女性に変わっていきます。強くないと、やっていけない仕事ですね。
ーー優しさだけでなく、強さが必要なんですね。体力やパワーも必要ですし、従来のイメージとの違いを感じる人も多いかもしれません。
山下さん みんな鍛えられて、強い女性へ変身していきます(笑)
ーー客室乗務員時代、一番の大きなトラブルは何でしたか?
山下さん 気流が原因で発生する、突然の大きな揺れです。足が浮き、カートも浮くぐらいの揺れに遭遇したことがありました。席にも戻れず、しゃがみ込み、イスにつかまりながら、「シートベルトをしめてください!」と叫びながら、揺れがおさまるまで待つしかありませんでした。
ーーどんな揺れでも、常に冷静に対応しているイメージがありますが、それでも大変な場合もあるんですね。
山下さん 気流が原因で起こる揺れは、ほとんどの場合、事前に察知しているのですが、予測不可能な突然の揺れは本当に恐怖でした。過去には、揺れによる転倒が原因で、大ケガをされた客室乗務員もいました。
ーーそれを聞くと、過酷さが伝わってきます。その他にも、トラブルや御苦労はありましたか?
山下さん 規則を守って頂けないお客様への対応に悩まされたことが時々ありました。また、お客様のご要望にどうしてもお応えできない時の対応にも苦慮しました。
ーーこれまでは、辛かったことや苦労、トラブルなどを伺いましたが、一方で客室乗務員になって良かったことを教えて頂けますか?
山下さん 仕事で訪れた先々で、世界の絶景を観たり、世界遺産を目の当たりにした時は、本当に感動しました。この仕事をしていなければ、なかなか訪れない場所もあったと思います。
ーー多くの国の様々な素晴らしい場所に行けるのは、うらやましいですね。他の職業にはない魅力です。
山下さん 本当にそうですね。この仕事の魅力の一つだと思います。
ーーその他に、良かったことや嬉しかったことはありましたか?
山下さん 降機時に、旅客機から出て行かれるお客様から「ありがとう!」と言って頂いた瞬間です。たとえどんなに辛く過酷な乗務だったとしても、その言葉を聞いた瞬間に、それまでの苦労が報われました。
ーー「ありがとう」の感謝の言葉が嬉しかったんですね。
山下さん はい。接客は本当に奥が深いです。マニュアル通りにお客様に接することは、もちろん大切ですが、時に臨機応変に対応することも大切です。お客様に高く満足して頂き、後日、感謝の手紙が会社に届いた時もありました。本当に嬉しかったです。
ーー型にはまったサービスを、ただ単調におこなうのではなく、常にお客様側に立って考え、場面に応じて柔軟に対応する姿勢を持つことが大切なんですね。
山下さん はい。当然ですが、お客様は一人一人違います。それぞれのご要望をお客様の表情や仕草から察知して、きめ細やかなサービスを提供することが、お客様の満足度を高めると思います。
ーーその他に、仕事をする上で大切にしていたこと、気をつけていたことはありましたか?
山下さん 先ほども話しましたが、とにかく体力勝負でした。体が資本なので、常に健康管理には気をつけていました。また、たとえプライベートで嫌なことがあっても、仕事に持ち込まないように注意し、お客様の前では、いつも笑顔で接するように心がけました。
ーー昨年、会社を退職されたわけですが、現在ふりかえって思うことは何かありますか?
山下さん 現役時代は、過酷な仕事に対して「仕事を辞めたい」と思うことも、正直に言うと何度かありました。でも、去年退職し結婚して、別の仕事をしている今、このように当時をふりかえると、素晴らしい仲間に出逢い、仕事から多くを学び、そして世界中の多くの魅力的な場所に行けたことが、私自身を大きく成長させてくれたということに気づきました。かけがえのない私の財産です。
ーー山下さんの今後の目標は何でしょうか?
山下さん 現在において、「これを目指したい!」という具体的な目標はありませんが、英語は現在の仕事にも役立っていますので、今後も勉強を続けていきたいと思います。
ーー最後に、これから客室乗務員を目指す方へメッセージをお願いします。
山下さん とにかく、あきらめず前に進んでいってください!実際に私自身も、二度の採用試験に失敗しております。また、当時の私の英語の力は、客室乗務員に採用されるために必要な力からは程遠いものでした。それでも、「必ずキャビンアテンダントになるんだ!!」という強い気持ちを持ち続けてチャレンジし続けてきました。〝努力をすれば必ず道が開ける〟ということを、多くの失敗を通して学びました。失敗しても、その都度必ず成長しているので大丈夫です。前を向いて頑張ってください!
ーー大変勇気づけられるメッセージに感謝です。今日はインタビューを引き受けてくださり、本当にありがとうございました。
(聞き手・工藤拓哉)
山下 里佳さん
金沢市内の短大を卒業後、ホテル日航金沢に入社。その後、グランドスタッフを経て、客室乗務員として日本航空(JAL)に入社。昨年、日本航空を退職し、現在は『味処 山下』の若女将として店を切り盛りする。17年間の客室乗務員で培った英語力と接客サービスは、日本人のみならず来店する多くの外国人観光客にも好評を得ている。
味処 山下
氷見、新湊漁港で取れたばかりの新鮮な海の幸を堪能できる、金沢で人気の割烹店。今年1月、『ニューヨークタイムズ紙』に掲載されて以降、県内外の観光客だけでなく、外国人観光客も増加し人気を博している。長年こだわりつづけた山下オリジナルの日本酒「吽」が、ニューヨーカーの間で評判になっているとか。
http://r.gnavi.co.jp/c0rsznta0000/
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